“学びの島で学びを体験する” Life is Learning ツアーレポート

2020年11月20日〜22日に海士町で開催された第1回Life is Learningツアー。「学びの島で学びを体験する」がコンセプトの、ちょっと(かなり!?)異色のツアーです。そして、感染対策をしっかりしながらもマインドの“密”を追求した、私たち島ファクトリーの新たな試みでもあります。3日間の様子を、実際の参加者がレポートします。

ライター:笹原風花


●1日目 

高校の魅力化や地方創生で知られる海士町。

Life is Learningツアーなるものが開催されると聞き、

なんだかわからんがおもしろそうと、軽い気持ちで参加を申し込みました。


ツアーの集合場所は、隠岐諸島へのフェリーが発着する本土・七類港。

参加者は各自で飛行機や電車を乗り継ぎ、ここまでやってきます。


「はじめまして。よろしくお願いします」


あれ、こういうときってどういう顔すればいいんだっけ?

どういうテンションで話せばいいんだっけ…?


初対面の人と仕事以外のシーンで出会う。しかも、3日間いっしょに旅をするなんて!

久しぶりの、いや、これまでの人生でもあったかなかったか…という経験。

参加者は11名。パッと見た感じ、年齢も雰囲気もさまざまです(ドキドキ)。


というわけで、旅は、よそいきの顔(かつ、マスク着用!)で始まりました。

大海原をフェリーに揺られること約3時間。ついに海士町に到着です。

「ようこそ海士へござらした」の看板(しゃもじ型!)とともに、

コーディネーターの大野佳祐さん、藤代圭一さんはじめ、ツアー関係者のみなさんが笑顔で迎えてくれました。


ランチに海士町名物の「寒シマメ漬け丼」をいただき(めちゃうま!)、さっそく海士町クイックツアーへ。

観光協会の藤尾さんにガイドしていただきながら、島の観光スポットを駆け足でめぐりました。


・島の高校生のための公設塾・隠岐國学習センター

・島で一番大きい北分大橋

・ハート岩がかわいい海士町の観光名所、明屋海岸


・都を追われた後鳥羽上皇が晩年を過ごした隠岐神社

最後に向かったのは、海士町立図書館。

ゆったりとお茶を飲みながら本を手に取れる、とっても素敵な場所です。


ここで、旅のチェックイン。

アイスブレイクに続き、大野さん、藤代さんによるレクチャーがあり、

Life is Learningツアーのコンセプト、そして「学びとは何か」をみんなで共有しました。


Life is Learningは「自分がどうなりたいか」を探る旅であること。

「とはいえ…」「でも…」を超えて、本来の自分を取り戻す旅であること。

安心・安全な領域から不慣れな領域へと「越境」してはじめてわかることがあること。

実は領域の境界は曖昧で、二項対立ではなく「融合・循環」させることが大事だということ。

人が学びを得るサイクルには、Experience(経験)、Learning(学び)、Reflection(振り返り)に加え、「Unlearning(アンラーニング)」という設計しきれない領域があること。

そして、今回のツアーでは「Unlearning」を大切にしたいということ…。


……え?


私たちはこの島に何かを学びに来たはず…?


設計できないって、参加者に委ねられているって、どういうこと?

学べるか学べないかは、あなた次第ですよってこと?

もしや、「Unlearning」って何かよくわかってないのは私だけ?


モヤモヤモヤ……


続いて大野さんが投影したのが、「discover」の文字。

discover、発見する。dis-cover、カバーをとる。自身に覆い被さるものを、脱ぐ。


「みなさんも、3日間でカバーをディスしてください」(大野さん)

……え? カバーをディス?


「なぜか話しちゃたり、ポロッと本音が出ちゃったり。ついつい・うっかり…が多くなるツアーになればいいなと思います」(大野さん)


おお、なるほど。

「学ぶ=身につける」と思っていたけど、どうやらそうじゃないらしい。

いつの間にやらあれこれたくさん身につけて着膨れている状態から、1枚脱いでみる。カバーをディスしてみる。

それが、意図せず起こるUnlearningにつながる…?

Unlearningって、抱えているものを手放してみるってこと?

ちょっとだけ、わかったような…気がしないでもない…。


最後に、3日間を通してのグランドルールを共有。


・肯定ファースト(beingは常に肯定しよう)

・Connect before Correct.(正すよりも前につながろう)

・Try to be honest.(ありのままに正直でいよう)


「他人だけじゃなく、自分を肯定してあげることも大事」という言葉が印象的でした。

夕闇が迫るなか、再び隠岐神社へ。

神主さんが「夜祈祷」をしてくださるのだそう。

ピンと張り詰める厳粛な雰囲気のなか、一人ひとりが神様との時間を過ごします。

それぞれが記した願いが納められたお守りを、神主さんにご祈祷していただきました。

無音の空間で目を閉じ無心でいると、心穏やかなのに研ぎ澄まされる感覚があり、

神様は信じるものじゃなくて存在するものなんだと、ふと腹落ちしたのでした。

1日目の夜は、二手に分かれて民宿に宿泊。おかみさんやご家族の温かいもてなしと海士町の海産物たっぷりのおいしい食事に、長い1日の疲れが癒されました。

参加者のことにも島のことにも、ちょっと触れられた1日目。

明日はどんな出会いが待っているんだろう。

自分が今、日常の領域外にいることに少し高揚しながら、眠りについたのでした。


●ツアー2日目


お世話になったおかみさんにお礼と別れを告げて、出発。

ツアー2日目のはじまりです。


2日目のテーマは、「自分への理解を深める」なのだそう。

自分と向き合うのって、けっこう勇気がいるもの(ちょっと怖い)。

いやでも、ここで逃げていたら来た意味ないよな…。

そんなことを思いながら、みんなと合流しました。


まずはペアになって、「昨日1日を過ごしての感想」のシェアから。

続いてのお題は、「3日間が終わったとき、自分はどうなっていたいか」。

うーん、これはなかなか奥深い…。

つい「こう答えるべき」という模範解答が頭に浮かんでしまう自分にゲンナリ。

(そうだ、diccoverだ! カバーをディスするんだ、私!)


ここで藤代さんが取り出したのが、Life is Learningカード。

52枚のカードに、さまざまな「問い」が書かれています。

そして、まっしろなカードが2枚。

ここに書く「自分への問い」をつくるのが、3日目の最終ワークなのだそう。

自分への問い、か……。

2〜3名のグループに分かれ、試しに一つ、やってみることに。

私たちが引いたカードに書かれた問いは…


「高校生の自分にアドバイスするとしたら?」


そして、問いに対する私たちの答えは…


「たくさん好奇心をもって。好きなことしていいよ。あと、もっと勉強したら自分のためになるよ」

「もっといろんな大人に会いなさい」

「ガチガチにならず、視野を広く」


藤代さんによると、人間には「問いがあると答えを探そうとする習性」があるのだそう。

「考えさせたければ、良い問いかけをすること。

すぐに答えが出る問いよりも、あれっと立ち止まるものがいい」と藤代さん。

「“自立的であれ”は、“良い問いを立てよ”と同義。Unlearnにもつながる」と大野さん。

自分にどんな問いを立てるのかで、自分の思考や在り方が変わってくる。

そういうこと、なのかな。

そんな気づきを得たところで、島の人とのふれあいタイムに。

3つのグループに分かれ、

有機農業を手がけるムラーズファームのフランクさん、

島の保健室的存在である「蔵」を運営する島根さん、

都会から移住してきた篠原さん夫妻に、お話を聞きに行きました。


私はムラーズファームへ。

ドイツ人のフランクさんが開墾から手がける農場で、化学肥料を一切使わずに野菜を育てています(ニワトリとヤギも!)。

キャベツの苗を植える体験をさせていただきながら、

畑のこと、フランクさん自身のこと、島の人たちとの交流、有機農業への思いなどをお聞きしました。

「田舎暮らしをスローライフとかいうけど、朝から晩まで僕はめちゃくちゃビジーライフだぜ!」

とフランクさんが言うように、農業、しかもそれを無農薬の有機農法でやろうとすると、どれだけ大変か…。

それでも、「命や自然の恵みを肌で感じ、育てる楽しみを味わい、自分の手できちんと作ったものを食べることは、自分にとってとても大事なことなんだ」とフランクさん。

土を触ったのも、土の匂いを嗅いだのも、そういえば久しぶり。

お昼はいつもコンビニで済ませてるしな…。

それでいいんだっけ? いや、良くはないよな。でもなあ……。

モヤモヤは続きます。

夫婦で海士町に移住してきた篠原さん夫婦。現在は、観光をはじめ島のニーズに合わせて様々なプロジェクトに関わり島内で活躍しています。

一部のグループは篠原さんを訪ね、今の島の生活や移住してよかったこと、もっとこうなればいいなということまで、本音で話していただきました。

午後からは、「私」を主語に語る時間。

自分が語ってみたいこと、話したいことを書き出し、数名ずつで語り合いました。


みんなから挙がったテーマは、


・安心な暮らしとは?

・周りの人を巻き込むつながりはどう作る?

・この島に連れてきたいと思う人は誰ですか?

・自分が夢中でのめりこめる「ワクワクする」ことは何か?

・サラリーマンの葛藤(自己―仕事―社会)


などなど。

ついつい、うっかり、熱く深く語っちゃう人もいて、

時間が足りなくなるほど盛り上がりました。

ここで、藤代さんの提案で、「課題解決ゲーム」をやることに。

みんなが互いにあだ名を呼び合ったり、みんなで知恵を出し合ったりしながら

課題を解決していくのですが、これがめちゃめちゃ盛り上がる!

終わったときには、大きな達成感と笑顔と一体感に包まれていました。

普段は真剣に話さないテーマについて語り合ったり、

いっしょに農業体験をしたり、

ゲームといえど協力して目標を達成したりするうちに、

いつしか「仲間」になっていないか、私たち!?

知り合って2日目だけど、私たち!?


「シェアする人がいてはじめて、“自分”の輪郭が浮かび上がる」と藤代さん。

そうか。シェアできる人がいるから、

「あれ、自分ってこんなこと考えてたっけ?」という発見があるんだな。

受け止めてくれる人がいるから、ポロポロこぼしちゃうんだな。

2日目の夕食は、隠岐神社にある食堂で。

「島食の寺子屋」で修行中の料理人さんたちが作る、海士町の食材にこだわった料理をいただきました。

海の幸、山の幸、おいしいお米に野菜…。

海士町が本当に自然に恵まれた豊かな土地だということがわかります。

日本名水百選にも選ばれた「天川の水」で作ったお酒もとってもおいしかったです。

満たされた気分で食堂を出て空を見上げると、澄んだ夜空に星がたくさん!

圧倒的な数の星が煌めき、吸い込まれてしまいそうです。

ふと浮かんだのは、「この島に連れてきたいと思う人は誰ですか?」という昼間の問い。

そうだなあ、誰かなあ、あの人かなあ…。

今度はいっしょに、海士町に来よう。

こうして2日目が終了。

たくさん考えて、話して、聞いて、感じて、また考えて…。

頭の中はまだぐるぐるしていて、昨日とは違う高揚感に包まれて、

なんだかおりゃーっと走り出したいような気持ち。

ふと、明日の今頃はみんなバラバラかと思うと、急に寂しくなったのでした。


●ツアー3日目


いよいよツアー最終日。

もう3日目かというよりは、まだ3日しか経ってないことにびっくり。

ゆったりと時間が流れているのに感性のアンテナが立っている感じがする。

慌ただしい日々に流されて、自分は鈍感になっていたのかもしれない。

さて、この日は、前日に一人一枚引いたLife is Learningカードの「問い」のシェアから。


・あなたが熱量を発揮するのはどんなときですか?

・あなたの中にある宝は何ですか?

・これからどのように生きたいですか?

・自分らしく生きるとどんな感じがしますか?

・本来のあなたを思い出すエピソードな何ですか?


などなど。

直球でズキュンとくるものも、じわじわくるものもあっておもしろい。

問いへの答えも、ペアでシェアしました。

3日目のテーマは、「自分自身への問いを持ち帰る」。

「自分への問いをつくる」という最終ワークに向かい、

改めて藤代さんから「問い」についてレクチャーがありました。

内省が深まる良い問いとはどのようなものなのか、ゲームや実践を交えながら体得していきます。


次にやったのが、「問いをギフトする」というグループワーク。

「3〜5年かけて実現したいこと」を発表した人に向けて、他のメンバーが「問い」を贈ります。

思わずぎくりとするような本質的な問いも多く、「これ、宝物にします!」という人も。

自分への問いづくりのヒントにもなりそうです。

問いを贈り合うことで、メンバー同士の関係性もぐっと深くなったように感じられました。


ワークの感想を一人ずつ振り返り、全体でシェアしました。


・問いやコメントをもらうことで、自分の話をそうやって聞いてくれていたんだとうれしく思った。

・先送りにしてきたことと向き合い、グサリときた。

・メンバーの「実現したいこと」を聞き、応援したくなった。

・仲間が自分にくれた問いを大事にし、自らに問い続けたい。

いよいよLife is Learningツアーもクライマックスに。


「良い問いとは、思わず答えたくなる問いです。最後は、問いかけの矛先を、自分自身に向けてみてください。ついに最後のワークです。みなさんの好きな場所で、自分に向けた問いを考えてください」(藤代さん)


海に向かった人もいれば、ぐるぐると歩き回っていた人も。

メモを見返したり、贈られた問いを反芻したり、ぼーっとどこかを眺めていたり…

思い思いの場所で、方法で、“自分への問い”に向き合いました。

誰かではない“自分”に向けての問い。

普段の生活や仕事から遠く離れたこの場所で、感じ、考え、

対話をすることで深めてきた、大事にしたいこと。

うん、やっぱり、あれだ。

―30分後、元の場所に集まり、みんなで「問い」をシェアしました。


・今日はどんな新しいことにワクワクして挑戦しますか?

・誰のどんなところからワクワクの影響を受けましたか?

・あなたは地に足をしっかりつけて生きていますか?

・今日も豊かに暮らせましたか?

・あなたは家族とどんな未来をつくりたいですか?

・それは何のためのものですか?

・今、どこを見ていますか?

・どんな教育、人づくりを大切にしたいですか?

・海士町に来てみて、どんな将来の景色が見えましたか?

・あなたは今、未来の自分に胸を張れていますか?

・海士の風、忘れていませんか?


11名それぞれが3日間を通して自分と向き合い、生み出した問い。

ペアやグループでの対話を通して、少しずつ自分をdiscoverし、

お互いの状況や思い、感じ・考えていることが垣間見えるようになったからこそ、

どの問いもその人らしさが表れた素敵な問いだということがわかります。

最後に、3日間を過ごして感じたことを全体でシェア。

みんなのコメントから、それぞれがそれぞれの文脈で、

充実した時間を過ごせたことが伝わってきました。


静岡から参加した会社員のMさん。

日に日に肩の力が抜けて、表情が柔らかくなっていくのが印象的でした。


「ザワザワした日常に追われ、ちゃんと学ばなきゃ、というガチガチの気持ちで海士町に来たのですが、discoverでいいんだとUnlearningの価値に気づくことができました。

一人で来ていたら、こんな学びはなかったと思います」


「ものすごく楽しい時間でした。

この素晴らしいロケーションでいろんな人と話ができたことに感謝しています。

ツアーに誘ってくれた奥さんにも感謝したい。この縁を、大事にしたいですね」


こうコメントしたのは、東京から夫婦で参加したKさん。

地方への移住を考えつつ、迷いもあるそう。

Kさんが大切にしたいことがどんどん明確になっていくのを、

側にいた私たちもひしひしと感じました。


千葉から参加した高校教員のAさんは、

やりたいことがあるものの周囲をうまく巻き込むことができず、悩んでいました。

最後は明るい笑顔で、こうコメントしました。


「今の精神状態で自分の内面を見つめ直したら悪いものしか出てこないと思っていたけど、3日間を通していろんな人といろんな話をしたことで、今は開放感と充足感でいっぱいです。

みんなに会えて、本当によかったです」


Aさんをツアーに誘ったのが、元同僚のYさん。


「いろんな人の人生にちょっと触れて、自分自身と向き合って、

(一緒に来ていたAさんと話すことで)仕事モードにもなって…とグルグル回すことで、新しい考え方や見方ができるようになりました」


そして最後に、島根(出雲市)から参加したGさん。


変わりたい、一歩踏み出したいという思いの強さは、

参加者のなかで一番強かったと思います。


「直前まで参加を悩んでいましたが、今は晴れ晴れした気持ち。

勇気を出して参加して、本当によかったです。

どのメンバーが欠けても、作り得なかったツアーだと思います。

今度は大切な人を、海士町に連れてきたいです。

取り出すと面倒だからと、自分の中に眠らせておいたもの。

いつかちゃんと向き合わないといけないなとわかっていたけど先延ばしにしてきたもの。

そんなものたちをdiscoverしたことで、予定調和ではなく得たものがあった今回の旅。

これがきっと、Unlearningってことなんだろう。


「大事なのは、ここで終わらせず、この問いを持ち帰り、自分に問い続けること」


藤代さんがそう言っていたように、これは終わりではなく始まり。

明日からも続く人生を、自分の足で歩き続けるための、最初の一歩。


Life is Learningツアー0期生のみんな、3日間、ありがとう。

長いツアーレポートを読んでくださったみなさんも、ありがとうございました。

(完)

株式会社島ファクトリー|SHIMA FACTORY Inc.

私たち島ファクトリーは島根県の小さな離島・海士町で創業し、島の観光業を土台から現場の最前線まで支え続けてきました。ないものはない海士町で、観光という領域から島と島の外を結び付ける会社です。